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ファクトリーサイエンティストな人 第8回:FS協会 TA 陣内和宏

2023年07月07日

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「ファクトリーサイエンティストな人」は、ファクトリーサイエンティスト協会(以下FS協会)の創設メンバーや理事・講師・TAをはじめとするFS協会に関わる人々を紹介するコーナーです。「ファクトリーサイエンティスト」って何?どんな人が関わっているの?という疑問や、それぞれのメンバーが「ファクトリーサイエンティスト」に込めた想いをお伝えしていきます。

第8回はFS協会TA(Teaching Assistant)を担当している陣内さんに、TAになったきっかけや、TAとしてFS育成講座について思うこと、これからのFS協会について広報の西野がインタビューしました。

(西野)まずは陣内さんの自己紹介からお願いします。

(陣内)
FabLab Saga代表の陣内(ジンノウチ)と申します。

普段は、FabLab Sagaで、3Dプリンタやレーザーカッターを利用者に教えたり、受託加工をしたり、PC・スマホのよろず相談を受けたりしております。

中学生の頃、『2001年宇宙の旅』というSF映画の原作を読みました。映画の中で、宇宙船を全て制御するAIが登場します。この頃からAIに関心がありました。

大学時代はAIを勉強しました。第二次AIブームの時期ですが、当時の主流のアプローチはPrologなどのAI用言語でエキスパートシステムを作成するというものでしたが、それではAIの実現は無理だろうと考えていました。唯一光があるとすると、ニューラルネットワーク、もしくは量子技術を使うかしてロジックによる実現ではない方法が必要だと思ったのです。

同時に、学生時代に就職先を決めようとしているときはバブルの終わり頃でした。当時、日本のメーカーに勢いがあり世界を席巻していました。そんな中、ものづくりにも興味はあったが、普通の人がものづくりをしても「敵わないし、畏れ多い」と僕自身は感じていました。

話は戻りますが、AI技術の実現にはもう少し時間かかると思い現実的な選択として、コンピューターメーカーに入り製造業向けのシステムエンジニアになりました。主に製造業のお客様を中心に企業向けのソフト開発を行ってきました。

その後、時が経ち、Googleのニューラルネットによる猫の画像認識や、D-Waveの量子コンピュタが発表されたことで、新しいことにチャレンジしたくてうずうずしていた時の事です。メイカーズムーブメントの発端となった、クリス・アンダーソンの『MAKERS』(2012年)を本屋でたまたま手に取り、FabLabという業態があることを知りました。これをきっかけに退職して、地元の佐賀にFabLabを開いたのです。

(西野)ファブラボについてもう少し詳しく教えてください

(陣内)
ファブラボは3Dプリンタやレーザープリンターなどをつかって誰もが自由にものづくりができる場です。
(ファブラボについての詳細は第6回:FS協会 専務理事 竹村さんの記事もご参照)

高尚な言い方をすれば「ものづくりの民主化」だと捉えています。日本のものづくり企業の大半が厳しい状況になった時、日本メーカーが厳しい状況にあるのならば、「もう一度ものづくりを庶民の手に取り戻し、誰もが好きなものを作れるようになった方がいい」と思ったのです。そうした想いでFabLab Sagaを設立しました。

FabLab Saga にて写真は陣内氏

(西野)ファクトリーサイエンティストのTAになったきかっけを教えてください。

(陣内)
ファブラボ開設後、全国のファブラボ仲間と知り合うようになりました。
ファブラボの文化を紹介した「Maker」(※)という外国映画の上映会があり、FabLab Sagaのオープニングイベントの一環として佐賀でも上映会を行いました。その字幕をつくっていたのが現FSA専務理事の竹村さんです。
※blog 「ドキュメンタリー映画「Maker」浜松にて上映会開催」を参照:https://makezine.jp/blog/2014/07/makerthemovie.html

その後、2019年の第1回講座の際に、竹村さんのお誘いでTAとして参加させていただき、それからずっとTAとしてサポートさせてもらっています。特に講座のための受講者アカウントの管理などは、プログラマとしての経験をフル活用し、スクリプトによる自動化など効率化を推進しています。また各種センサーやツールのサポートも積極的に行っています。

(西野)ファクトリーサイエンティスト育成講座の魅力は何でしょうか?

(陣内)
FabLabのことを少しでも知っている方に、ファクトリーサイエンティスト講座の説明をする時は、すこしくだけ過ぎた表現かもしれませんが、「FabLab がIoTを提案するなら、こんな形で、手っ取り早く、安く、実現できるのですよ。」という話をしています。

大手ベンダーに頼んだら、すぐ数百万円以上の見積もりが出てきてしまうと思うのです。もし仮に僕が大手コンピューターメーカに勤めていれば最低でも同じような見積りを出します。ベンダーに丸投げされてしまうと、現場には不確定要素が多いため、要件の確認から、全国各地の工場へのインストール、故障対応、などなど、リスク管理上そういう見積もりを出さざるをえません。現在FS育成講座で教えている内容で実装するとしても、です。

そうではなく、導入企業自分たちでできるし、やるべきだという想いで、受講者の皆さん自らの力を引き出せるように取り組んでおります。

(西野)FS育成講座をどのような方に受講してほしいですか?

(陣内)
まずは、技術職、事務職問わず、現場で困りごとがある方ご自身に、こんな技術、方法があるということを知っていただきたいです。

講座の初日、自己紹介の時には講座の中で何をやりたいか思いつかない人も実際には多いのです。上司に受けてこいと言われとりあえず受講する方もいます。けれども、プログラムをちょっと書き換えるだけで、全国各地からの数十人の参加者が測る温度が一つのグラフに瞬時に表示されるのです。ここにはやってみた人でしかわからない独特の感動があります。

その上で、「自分ごと」として考えていただくといいと思います。それぞれの現場でのお悩み、解決したい課題があるはずです。それは我々がいくら技術を教えたところで出てくるものではありません。

また、経営層のご理解が無ければ、IoT導入を含めたDXは成功しないと考えています。経営層の方にもご自身で体験していただき、経営改善あるいは革新のために、測定すべき指標は何かということに思いを巡らせていただければと思います。

ファクトリーサイエンティスト講座には、「自らの現場を題材にして、自らの困りごとを解決策としてつくる」という特徴があります。故に、生み出されたソリューションは、類似の現場で必ずや活躍してくれるもの、みんなに使ってもらえたらとても嬉しいものとして、想いと共に流通していくはずです。なるべく早くこんな世界観を実現したいと思っています。

(西野)ファクトリーサイエンティスト協会の10年後の姿をどのように描いていますか?

(陣内)
ChatGPTを初めとするAI技術が突然、爆発的に開花したので、10年も先のことは予測困難な時代に突入したと思っております。しかしFS協会も当然のようにそれらの新技術を取り込んで、現場の皆様のお困りごとの解決にAI以上に頼れる存在になっていきたいと思います。もしかしたら講師やTAにもAIのメンバーが入っているかもしれませんね。

(西野)最後に、FabLabSagaではどのような活動を予定されていますか

(陣内)
新しいことをワイワイ語り合いたい人が集う勉強会、ロボ研 を定期的に開催しています。

60代の方から20代の人まで年齢層は幅広く、佐賀大学の学生さんも参加されます。メカエンジニア、ソフトエンジニアなど仕事の人から趣味の人まで多様な方がいらっしゃいます。ファブラボを個人で利用する人の中には、「こういう商品を作りたいが試作をつくってみたい」という人もいますし、「アイデアがありそれを何とかしたい」という人が時々来られます。ファブラボをつくってよかったと思う瞬間でもあります。

毎年、佐賀で開かれる「ものすごフェスタ」に仲間と参加しています。佐賀県内最大級のものづくりの祭典で、ものづくりで佐賀を元気にしようという取り組みです。現在、今年の出展内容について仲間と詰めています。

2023年は8月19-20日に開催(SAGAアリーナ)されますので、ぜひ足を運んでみてください。
https://sagamonosugofesta.info/

ものスゴフェスタで発表予定のぬいぐるみロボット。ChatGPTと連動して、音声でおしゃべりできるようにする予定です。

取材担当西野の一言

陣内さん、インタビューの中でシフトチェンジする「きかっけ」がいくつも出てきました。
1つは、中SF映画の原作『2001年宇宙の旅』。中学生の頃からAIに関心を持ち続け、紙面の都合で書ききれませんでしたが、大学時代に学ばれ、現在に至っています。会社員生活に終止符を打ちFabLabを設立したのはクリスアンダーセンの「Maker」がきかっけでした。
映画、書籍、人。新しい出会いより何を受け取るかは人それぞれですが、陣内さんがもつセンサーはとても精度が高く行動に結びつかれていると思います。