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ファクトリーサイエンティストな人 第7回:FS協会 理事 長島 聡

2023年06月08日

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「ファクトリーサイエンティストな人」は、ファクトリーサイエンティスト協会(以下FS協会)の創設メンバーや理事・講師・TAをはじめとするFS協会に関わる人々を紹介するコーナーです。「ファクトリーサイエンティスト」って何?どんな人が関わっているの?という疑問や、それぞれのメンバーが「ファクトリーサイエンティスト」に込めた想いをお伝えしていきます。

第7回は、FS協会の理事で、きづきアーキテクト代表取締役の長島さんにお話を伺いました。

(西野)まず、FS協会の活動に理事として参画されたきっかけを教えてください。

(長島)
一言でいえば、「代表理事の大坪さんに口説かれた」です 笑
FS協会は、2018年だったと思いますが、原点となる講座が、経済産業省の「産学連携デジタルモノづくり中核人材育成事業」の公募で採択されたことが始まりです。現理事の田中教授、代表理事の大坪さん、そして専務理事の竹村さんが議論を重ねて、「ファクトリーサイエンティスト育成講座」を試験的に実施して、とても好評だったと伺っていました。

当時、私はローランド・ベルガーのグローバル共同代表を務めていましたが、この活動が日本のものづくりの現場に必要だと手応えを感じるとともに、こうした取り組みをよりスケールさせていくためには色々な人を巻き込み、盛り上げていくことが大事だと思ったので、大坪さんの声掛けに呼応する形で参画しました。仲間を集めるのはもちろん、リソースが少ない中、目的にまっすぐに進んでいくために、役に立ちたいと考えていました。

IoTをもっと身近に始められるようにしたい。どちらかといえば、単純にデジタルツールに興味があるという人よりも、自分で「こういう現場を実現したい。こんな改善をしたい」と考えている人に、それを叶える(デジタルの)武器を持ってもらいと思っていました。現場のトランスフォーメーションをデジタルで成し遂げる、本当の意味でのDX人材を増やせるだろうと考えていました。

(西野)FS協会の活動と前後して、きづきアーキテクトを京都で創業されています。ホームページにある「みんなの気付きを築く会社」とはどのようなことなのでしょうか。もうすこし具体的に教えていただけるでしょうか。

きづきアーキテクト(外観)

(長島)
日本では生産性の向上が叫ばれてきましたが、ここ数十年は効率化を目的とした取り組みが多かったように思います。いま日本には新たに生まれ出る価値が足りないのです。新たな価値の構想を掲げ、様々な能力を持った人をつなげ、その構想を実現する。こうした活動を増やしていくことこそが、今の日本には必要だと感じています。これからの日本では、単に消費だけを楽しむのではなく、すべての人が供給側にまわって新たな価値を生み出すことが大事になります。きづきアーキテクトでは、そうした世界を実現すべく、誰もが新たな価値を生み出すことができるのだと気づいてもらうための活動を進めているのです。さらに、新たな価値が生まれる瞬間をみんなで一緒に味わいながら、そうした経験自体をみんなの資産にできたら最高です。最近注力しているPEACE COIN(ピースコイン)も、つながりや対話を通じた価値創出を促進させる仕掛けにしたいと考えています。

(西野)PEACE COIN、具体的にどのような取り組みでしょうか?

(長島)PEACE COINは、仮想通貨の一種なのですが、地域通貨として地域の活性化に役立っています。特徴は、「使用しないと金額が減り、使用することで増大する」というお金の循環を促す不思議なアルゴリズムを持っていることです。溜め込んでいるお金は少しずつ減っていき、素早くたくさん使うとたくさんのお金が還元されます。つまり、地域コミュニティの中で、メンバー同士が買い合うという文化を醸成することができるツールです。「豊かさはお金だけで買えるものではない」という理念の下、既存の経済システムでは可視化されなかったさまざまな価値を表舞台に出していくことを目指しているのです。現在、全世界で100程度のコミュニティで導入が進んでいます。

少し話が飛びますが、日本の円の流動性がとても低くなっていることをご存知でしょうか。40年前は、発行額に対して同じ量の取引が1年間で発生していました。しかし最近では、発行額の40%の取引しか発生していないのです。つまり、特定の場所にお金が溜め込まれていて、流通しなくなってしまったのです。日本の労働生産性が低い、賃金が上がらないといった問題は、この円の流動性の低さが一つの要因だと考えています。翻って、買い合う文化を醸成するPEACE COINでは、発行量の6倍もの取引が行われているのです。

きづきアーキテクトでは、このPEACE COINを日本に浸透させるべく、幾つかの取り組みを始めています。静岡県浜松市にある自動車部品メーカーのソミックグループとは、対話と笑顔に溢れる街、ソミックソサエティの実現の一貫として、PEACE COINの導入を進めています。ネッツトヨタニューリー北大阪とは、既に地元商店を応援する取り組みとして進めてきた地域振興券を、PEACE COINに代替して賑わいを増幅させる検討を始めました。また、兵庫県丹波篠山市では、丸太本位制という通貨制度を作り、森を守り木材を流通させるための仕掛け作りにPEACE COINの活用を検討しています。

(西野)PEACE COINとの取り組み、誰もが主役になれる可能性を秘めていて、素晴らしいですね。FS協会の活動との共通項はありますでしょうか?

(長島)
FS協会の取り組みに組み込むことができると思います。今年3月に開催したファクトリーサイエンティスト3周年記念イベントでは、会員企業の方が「こんなのどう?」と試作した開発デバイスを持ち寄ってくれました。全員がこうした活動を始めて、楽しめるようにしていくためにPEACE COINが有効に機能しそうです。講座の最終報告では必ず一人が一つ新たなIoTソリューションを発表すると思います。それに対して、アイディアが素晴らしいという称賛のPEACE COINを渡したり、自分の工場で使いたいとそのソリューションをPEACE COINで購入したりしても良いかもしれません。

(西野)そうした取り組みが進むと、FS協会にはどんな変化が起こるとお考えですか?

(長島)
FS会員内でのコミュニティ活動が段違いに盛んになると思います。分からないことを教えてもらったら「ありがとう」をPEACE COINで伝える。とっておきのソリューションをたくさん販売して、PEACE COINを稼ぐ。リソース不足の工場にソリューションの実装を手伝いにいく。本業の金属加工で協業する。交換留学をする。こうした大小様々な価値が常に生み出されている状況になるのではないかと思っています。仮に講座受講料のうち5,000円は必ずPEACE COINに代えてしまえば、会員の中で自然と売り買いの連鎖が始まり、少しずつ買い合う文化を育んでいけるのではないでしょうか。

ファクトリーサイエンティスト講座には、「自らの現場を題材にして、自らの困りごとを解決策としてつくる」という特徴があります。故に、生み出されたソリューションは、類似の現場で必ずや活躍してくれるもの、みんなに使ってもらえたらとても嬉しいものとして、想いと共に流通していくはずです。なるべく早くこんな世界観を実現したいと思っています。

(西野)FS育成講座をどのような方にお勧めしたいですか?

(長島)
「課題意識を持っていて改善している」、「現場でやりたいことが具体的にある」、「こんなことしてみたいけれど、時間が足りない」と感じている。このような好奇心のある方ですね。自分のやりたいことが溢れているので、ここはIoTにやらせておこう。もっと時間を作って色々な人に会いに行こう。とにかく時間を捻出して、いろんなことをやりたい人にお勧めします。

職種・業種にかかわらずぜひ受講いただきたいです。異業種が交わる場としても役立つと信じています。もちろん、経営者で、手触りを持ちたい、社員に受けさせる前に自らが理解しておきたいという方にもお勧めです。また、現場の方々と触れ合って、真に役立つDXの製品やサービスを作りたいと考えるシステム関連の事業者も大歓迎です。

きづきアーキテクト内観

(西野)10年後のFS協会をどのように描いていますか?

(長島)
10年後には、日本有数のコミュニティとなり、専門家同士が能力を買い合ったり、自然と無数のチームが生まれ新たな価値を創出したりしている状況を生み出したいですね。AIやロボットをはじめとする多様な先端技術はもちろん、これまで培ってきた伝統技術もふくむ「あらゆる工場を科学する知恵」が4万人のコミュニティのなかで流通し合っている状態が理想です。どんなお困りごとがあっても、4万人もいればお互いの能力の買い合いで瞬く間に解決してしまえるコミュニティを目指したいと思っています。

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取材担当西野の一言

最近、「生産性をもっと上げないと」と少々疲弊している知人と会いました。企業では経済成長性が指標なので効率化とコスト削減が優先されがち。(それ自体が目標になっている…)を目の当たりにした場面でした。

そんな時、今回の取材でpeace coinの存在を知りました。「使うと増える」不思議なお金。まるで物々交換のようですし、一人一人の小さな工夫、仲間への思いやりを称賛し感謝することができるというのです。「うれしい」という価値基準は人それぞれですが、仕事でも、友人や家族と過ごす日々の中でも「ありがとう」という言葉をもらうとうれしいものです。peace coin では、まだ見ぬ人に感謝したりつながる機会にもなる。近い将来のファクトリーサイエンティスト協会に実装したいと思いました。